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浄土ヶ浜の潮のかおり(岩手) 会報誌No.42掲載(個人会員:若狭梨佳)
「だいたいさ、駅に降り立った瞬間から海の匂いがするよね」
そういったのは、海のない町に育ち、この町に越してきた友人でした。  
本当に駅に降りたときから潮のかおりがするかどうかは、わかりません。しかし、生まれたときから当たり前のようにあった風景とかおりが、ここを訪れる人たちに、決まってたまらない感嘆を呼び起こすらしい…、そのことがどこか不思議な想いでした。


浄土ヶ浜は、本州最東端のまち、宮古市にあります。東経142°(日本標準時から+28分)、本州でもっとも早く日の出を迎えるまちです。『浄土ヶ浜』の名は、宮古山常安寺の霊鏡和尚が「さながら極楽浄土のごとし」と感嘆したことから名づけられたといわれています。昭和30年には陸中海岸国立公園の指定を受け、宮古市を代表する景勝地となっています。

浄土ヶ浜の散策コースには、森林浴をしながら展望台から海を見下ろすコースと、海際を歩くコースとがあります。この日は海際を歩くコースをとりました。浄土ヶ浜ターミナル側から降りる遊歩道の入り口はちょっと長い階段です。ゆっくりと、階段を下りていくと…、見えてきました。

遠く、空と海の交わるところまで続く海の蒼。その中に白い流紋岩が並び立つのが見えます。海をのぞき込むと、海はこんなに透明だったろうかと思うほどの透明感です。寄せて返す波の音が、耳に心地よく響きます。

この日は風もなく、波も凪いでいました。深く息を吸い込むと、確かにふぅわりと潮のかおりがしました。マリンノート・ポプリのように透明感の中にやわらかく香るというよりは、海の濃いかおりです。歩みを進めていくと、「奥浄土ヶ浜」に着きます。ここが一番有名なビューポイントで、白い岩の上に松の緑色が彩りを添え、目に映るすべてが見事なコントラストをなすその光景に、思わず言葉を失くします。海は遠く群青に霞み、近くは青く、ときどき碧に光ります。

なぜ、浄土ヶ浜の岩は白いのでしょうか? 少し前まで、この白い流紋岩は「石英粗面岩liparite」とも呼ばれていました。その名がギリシャ語のliparos(光っている)に由来する「石英粗面岩」は、その成分の70%以上がSiO2(二酸化珪素)から成ります。SiO2といえば、水晶の主成分…なるほど、白いわけです。浄土ヶ浜の白い岩は、いわば蒼海に抱かれた海の水晶なのでしょう。

浄土ヶ浜からは観光船も運航されており、美しい海岸線を海から眺めることができます。元旦に運航される初日の出観光船は、本州一早い日の出を見ることができると人気があるようです。初夏には自生しているハマナス(バラ科の落葉小低木)が咲き誇り、バラに似た香りを漂わせます。

この風景を守るため「浄土ヶ浜をきれいにする会」を中心に清掃活動が行われています。残念ながら、観光マナーが100%守られているわけではないのです。平成18年には「かおり風景100選」と同じく環境省から「日本の快水浴場百選」〔海の部特選〕の選定を受けました。夏は海水浴場としても賑わいをみせる浄土ヶ浜。かおり風景と触れ合うだけでなく、その風景を守ること、その取り組みは誰か特別な人がすることではなく、この風景を訪れる私たちひとりひとりが行うもの。訪れる際には、そんなことにも思いを巡らせてみてはいかがでしょうか。
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