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天津小湊町誕生寺の線香と磯風 (千葉県) 会報誌No.37掲載(会員:平賀喜代美)
「初夏の潮の香りがお帰りなさい」と迎えてくれます。毎年この地域の海に来ている私にとって、約1年ぶりの気持ちです。ここは電車で東京駅から特急で約2時間、平成17年(2005年)2月に千葉県鴨川市となり、日蓮聖人の御降誕の地、鯛の町、小湊の地です。空と海の青い濃淡がある海岸通り沿いには漁船が停泊し、海産物を扱う店、土産物屋、食事処、ホテル・旅館が並び、どこからともなく、活魚、干物など、磯のかおりと自然の恵みに包まれながら、誕生寺へ進みます。


誕生寺は日蓮聖人の御降誕の地であります。鎌倉時代の貞応元年1222年2月16日に小湊片海の地に誕生し、そのとき、庭先から泉が涌き出し産湯に使った「誕生水」、時ならぬときに浜辺に青蓮華が咲いた「蓮華ヶ渕」、海面に大小の鯛の群れが集まった「妙の浦」という不思議な「三奇瑞」が伝えられています。
誕生寺総門(入口)から境内へと入った瞬間に視界が広がり、静寂の中に風格がある仁王門へと続く石畳に、自然と背筋をピンと伸ばし歩いていきます。仁王門から祖師堂へゆっくりと歩く途中左側に、日蓮聖人御幼像があり、松の木が堂内の趣と調和しているすばらしさに感動を覚えます。日蓮聖人像を安置する祖師堂でお詣りをして、特別公開中の堂内へ進みます。客殿には、桜の間と牡丹の間の四条派極彩色の襖絵、本堂内陣の折り上げ格天井に仏教植物の天井画(石川響画伯筆)が掲額され、色彩美と重厚な存在感を感じられます。客殿奥庭を見ながら、ゆったりとした気持ちで対面の間に進み、充実感で満ちあふれるときです。

本堂から外へ出ると光が眩しく感じられ、祖師堂前の風格と歴史のある松の下のベンチに座ります。心地よい風の中、枝の間から青空を見上げると、上空にはトビが飛び、左手側から祖師堂正面にある大香炉の線香のかおりがし、右手側から磯のかおりがします。それは歴史の和のかおりとその土地に行って感じられるかおりでもあるのではないでしょうか。光り輝く緑濃い山々を背景にも感じながら、しばらく耳を澄まし、風を感じ、かおりを楽しむひとときです。まさに和と自然のコラボレーションです。ホッとした気持ちで境内を後にします。

次は鯛の浦遊覧船に乗ります。鯛の浦は日蓮聖人御降誕の折、小湊湾内に2〜3尺もある鯛が群集浮上し波間に銀鱗を踊らせて祝したといわれています。この遊覧船(1周約25分)は特別天然記念物「鯛の浦たい」を実際に見ることができます。深海性回遊魚である真鯛が、水深わずか10〜20mの海域で群泳していることは謎とされています。しばし、潮風にあたり、海上から陸地を眺めて、この土地の歴史と自然の不思議さ、奥深さを感じます。最後に磯に沿って、ゆっくりと歩きながら深呼吸をしてみます。「何だろう、この気持ち?」自然のかおりが記憶を呼び起こします。

「線香と磯風」それは私にとって幼少の記憶を思い出させてくれるものでした。家族で参拝に行ったり、海水浴に行った思い出です。線香のかおりと自然がもたらす磯風がきっかけとなり、遠い記憶を呼び起こしてくれました。誰にでも、大切なかおりがあると思います。五感を大切にしたい気持ちが、より一層深くなった充実したひとときでした。
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