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灘五郷の酒づくり(兵庫県)
灘は日本一の酒どころといわれています。神戸市から西宮市までの東西約12kmの海岸線に沿った地域の中で、今津郷・西宮郷・魚崎郷・御影郷・西郷の5カ所に酒蔵が点在していることから「灘五郷」と呼ばれています。灘五郷・灘の酒は、寛永年間に西宮で醸造が始まって以来、今日まで400年を経て、今もなお約40社の酒造メーカーが伝統の技を競い合い、味わい豊かな酒をつくり続けています。また、酒文化の歴史を後世に伝えるため、伝統的な酒蔵風景も一部残しつつ酒づくりの資料館や記念館が現在11カ所に開設されています。

蔵元では、秋、米の収穫の始まりとともに酒づくりの季節がやってきます。私は、ちょうど酒づくりが始まったばかりの10月、神戸市内の御影郷と魚崎郷を訪れました。その中のひとつ「浜福鶴吟醸工房」では、伝統の酒づくりの全工程がガラス越しに見学できるようになっています。少し小学生の遠足気分で酒蔵を見学しました。

酒づくりは、まず米を「精米」するところから始まります。精米した米は水洗い後、水に浸し、ほどよく水分を含ませて蒸して“蒸米”にします。次に、酒づくりの工程で最も重要な工程のひとつ、「麹づくり」が行われます。“蒸米”に麹カビをうえつけ増殖させます。このつくり方は、合理化されていく酒づくりの中でも昔から変わらない方法で行われています。一定の温度を保つように、麹をかき混ぜたり布団をかけたりなどの温度調整の作業は、夜も昼も関係なく行われます。麹づくりは、経験と熟練を必要とし、酒質を左右する重要な工程です。そして、できた“麹”と“蒸米”と“水”そして“酵母”を混ぜ合わせ“酒母”をつくります。身を切るような寒い冬の朝に仕込むところから、「灘の寒づくり」といわれている工程です。ここで酒づくりに必要な“麹”と“酒母”ができると、いよいよ「仕込み」となります。“酵母”に“蒸米”“麹”“水”を加えて攪拌し発酵を徐々に進めて“もろみ”をつくる作業です。発酵が終わった“もろみ”は酒と酒粕に搾り分けられ、新酒ができ上がります。

展示品の中には、昔、仕込みに使われていた大きな桶と、櫂と呼ばれる攪拌する棒がありました。現在、「仕込み」はほとんどがタンクの中で行われていますが、その櫂で桶の中をかき回している昔の「仕込み」の様子を、テレビなどでご覧になったことはありませんか? たいてい、歌をうたいながらの作業だったそうですが、なぜだと思われますか?私は、楽しい雰囲気になるからかな?と思ったのですが、ほかの理由がありました。この「仕込み歌」を“時計”の代わりにしていたのだそうです。この歌を1曲歌い終われば何分経過・・・という昔の知恵なのですね。

灘五郷は、この仕込みの時期に「新酒の香り」が漂っているということから、「灘五郷の酒づくり」として「かおり風景100選」に選定されました。見学コースにおいても、最大の見所は『もろみ仕込み』です。タンクの中で発酵を続ける“もろみ”がふつふつと生きている様子をガラス窓越しに見ることができ、甘く漂う香りを楽しむこともできます。残念なことに、私が訪れた時期は仕込みの季節ではなかったため、“もろみ”の香りを楽しむことはできませんでした。けれども、あちこちに展示されている、昔使われていた古い木の道具や桶などのそばに近づいてみると、木の香りの中に染み込んでいる、ほんのりとしたお酒の香りが感じとられました。そして、懐かしいような、落ち着いた、とてもいい気分に浸ることができたのです。


実はお酒に弱い私ですが、日本酒を木でできた升で飲むと、木と酒両方の香りを楽しむことができ、アロマテラピー効果が期待できるのではないかと考えました。木は植物です。酒も元は米で、植物です。やはり植物の香りというのは私たちにすばらしい作用を与えてくれるものなのだと実感しました。

次回は、ぜひ「仕込み」の時期に訪れて、新酒の香りを体験したいと思います。皆さまも『お酒テラピー』の体験はいかがですか?
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