HOME > AEAJマガジン > アロマテラピーワールドマガジン > トルコ編第2回

アロマテラピーワールドマガジン トルコ編第2回 朝食と健康
山下 千恵   やました・ちえ
AEAJ認定アロマテラピーインストラクター。
日本大学農獣医学部農芸化学科卒、ファンケル化粧品商品企画勤務後、自然療法を学ぶ。アンカラ在住。
朝食といわれて思い浮かべるメニューはどんなものでしょうか?白いご飯と味噌汁、あるいは食パンにコーヒー。家庭によって地域によって、また時代によって私たちの朝食は刻々と変化してきているようです。私の家庭でもまだ私が幼かった頃はご飯に味噌汁、魚や漬物など、いわゆる日本食をベースにしたものが多かったのですが、今では食パンに野菜、果物そして卵やハムなど洋食の日がほとんどになりました。トルコでの朝食は日本のように家庭や地域の差は少なく、ほぼどこでも毎日同じメニューになります。季節によって多少の差はありますが、基本形はトマト、キュウリ、白チーズ、オリーブの実、そしてパンとチャイ(トルコの紅茶)です。これに卵料理、バター、蜂蜜、ジャムが添えられることがほとんどです。一日の始まり、朝食のメニューやその形態はその国の文化や健康事情を知る大きな手がかりであると考え、今回はトルコの色と香りにあふれる朝食についてレポートします。
トルコに来たばかりの頃、トルコ人の家庭で生活をしていた私は来る日も来る日も変わらないこの朝食に半ば飽きたこともありましたが、シンプルでいてうきうきするような色鮮やかなメニューと家族で食卓を囲む朝食の雰囲気が大好きでした。そしてさらに栄養価の面でも実にバランスのとれたメニューであることがわかります。真っ赤に熟れたトマト、みずみずしい香りのキュウリ、チーズは牛や羊、または山羊のミルクからつくる白くてややもろい感触の白チーズが使われます。一見、日本の木綿豆腐に似ています。ほかにも多くの種類がありますが、朝食では断然この白チーズが選ばれます。スーパーマーケットはもちろん、地域のパザール(市場)でも売られるほどのトルコの食卓には欠かせない食材のひとつといえるでしょう。
もうひとつトルコの代表的な食材オリーブはまだ熟しきっていない緑色のものや完熟した黒色の実を塩やハーブで漬けたものを食します。トルコ西部のエーゲ海沿岸で育つオリーブはオリーブオイルをはじめ塩漬け、オリーブペーストなどの加工品にされ海外にも輸出されます。有名な古代遺跡のひとつトロイに近いアイワルクという小さな港町にはオリーブオイルの工場やショップが数多く並んでいます。私はこの地域で採れたおいしいオリーブオイルを見つけたので、好みのハーブを加えてパンにつけて食べています。オリーブオイルは便をやわらかくし、緩下剤としての作用をもち、朝空腹時にスプーン2杯を服用する療法もあるので、薬局で売られるヒマシ油の代わりに気軽に利用することができそうです。若い緑のオリーブは苦味があるので果実の表面に切り込みを入れ、水で苦味を抜いてから塩とクエン酸とで漬け込みます。ほんのり酸味があり、果実の歯ごたえがフレッシュな緑のオリーブに対し、熟した黒いオリーブはやわらかくオリーブ自身の風味がより豊かです。
ところで本題から少しそれるのですが、トルコの人たちはこのオリーブを食べる際、とても上手に種をお皿に戻します。ちょうどズイズイズッコロバシの手つきで口元にもっていき種を口から出し、お皿に戻すのです。こうすれば他人に不快な印象を与えることもありませんし、フォークで不安定にお皿へ戻す必要もないわけです。ヨーロッパ的な優雅でスマートなマナーという感じではないのですが、素朴でトルコらしい行為だと好ましく思います。昔からトルコでは日本と同じように玄関で靴を脱ぎ、床に座り床で眠るという文化をもっています。現在の都市部では少なくなりましたが、今でも床で食卓を囲むことも珍しくはありません。大きな布を広げ、中央に食事を載せたアルミ製の大きな丸いお盆を置き、家族は床に座ると布でひざを覆うようにして食卓を囲むのです。この布はテーブルクロスであり、家族共通のナプキンでもあるわけです。食事が済むとクロスに落ちたパンくずなどをまとめて捨てることができるので、床を汚すこともありません。こちらも決してしゃれたスタイルとはいえませんが、何ともほのぼのとした温かさのある食卓だと感じるのです。
このほかに朝食に登場する食材にバター、蜂蜜、ジャムがあります。蜂蜜にはトルコ各地の植物から採られたいろいろな香りのものがあり、柑橘の花の蜂蜜(南部)、松の蜂蜜(エーゲ海沿岸)、高原の花の蜂蜜(東アナトリア)などがあります。専門店では栗、タイム、菩提樹の花などの蜂蜜も扱っています。ジャムにも非常に多くの種類があり、珍しいものだと青イチジク、黒イチゴ、クワの実、マルメロ、ケッパー、バラ、ローズヒップ、乳香樹などがあげられます。例えば青イチジクは3apほどの若く堅めの果実を収穫してジャムにするのですが、新鮮な青い香りで個性的な緑色のジャムです。乳香樹はガムの原料にもなっているのですが、これをジャムにしているようで、今後試してみたいもののひとつです。
文章の初めにトルコ人の家庭で生活していたと述べましたが、そのときの朝食では週に一度素敵な食材が登場し、私を喜ばせたものでした。それは新鮮な牛乳からつくるカイマックという濃厚な生クリームのようなもので、蜂蜜やジャムと一緒にパンに塗って食べたり、デザートに添えられる食材です。この家庭では村からの新鮮な牛乳を買ってくると鍋でゆっくりと沸かしてヨーグルトをつくっていました。そのとき、牛乳の表面にできる脂肪の膜がカイマックなのです。脂肪分が多く、殺菌処理がされていないこの新鮮な牛乳からできるカイマックはまろやかで甘いいい香りがします。大量の牛乳からわずかな量しかとれないため、カイマックという言葉は本来の意味とは別に“物事の最良の部分”という意味ももちます。現在私の住む地域では残念ながら村からの新鮮な牛乳を手にするのは困難なのですが、秋が深まり、すてきなメニューが仲間入りしました。家の前の庭で採れた6、7cmほどの小ぶりなリンゴをシナモンと一緒に煮てジャムにすると、朝食に季節の香りを連れてきてくれたのです!健康を考えるとき、栄養素のバランスはとても重要ですがきれいな色で目を喜ばせ、香りで鼻を刺激し、そして自然を感じたり、ときには心をわくわくさせるような“シカケ”をしのばせることも大切なのでは、と思うのです。
FAQ