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アロマテラピーワールドマガジン イギリス編第2回 ビューティとホリスティックヘルス
池田 朗子   いけだ・あきこ
AEAJ認定アロマテラピーインストラクター。AEAJ企画広報委員。IFA認定アロマセラピスト(IFAおよびIFPA正会員)。AEAJ認定アロマテラピーアドバイザー認定教室aromaticlifeやトリートメントルームを主宰。英国ロンドン在住。
今回はイギリスから、アロマテラピー におけるビューティとホリスティックヘルスというふたつの概念の接点について追ってみたいと思います。
折しも本日、ロンドンで開催されていた補足療法と自然療法業界関連のエキスポ会場において、アロマテラピー・コンソーティウム(旧A.O.C)から社会に貢献したアロマセラピストに授与される「ザ・マルグリット・モーリー・アロマセラピスト・オブ・ザ・イヤー・アワード」の授賞式が行われていました。イギリスといえばホリスティックアロマテラピーの本場として有名ですが、この考え方はもともとマルグリット・モーリーよりもたらされたことは周知の通りです。
それでは、彼女の残した名著「The Secret of Life and Youth」(英語版)の中で、彼女に直接師事したイギリスアロマテラピー界の大御所のひとりダニエル・ライマンによって語られているモーリー像を紹介してみましょう。マルグリット(旧姓マルグリット・ケーニヒ)は1895年オーストリアに生まれイタリア・ベニスで育ち、若き日は音楽、有機化学や植物学を学んでいたそうですが、志を半ばにして17歳で初めての結婚をします。長男を2歳のときに髄膜炎で失い、ほどなく第一次世界大戦で夫を亡くし、さらに追い打ちをかけるように父親が自殺するという数々の憂き目に合ったマルグリットは、失意の中から結婚で中断されていた勉強を再開し、看護婦と手術助手の免許を獲得します。
そしてベニスを去り、子どもの頃よく訪れたフランスに住居を移したことで、その後の人生を変える2つの大きな出会いに導かれます。ひとつめは、彼女のアロマテラピー熱に火をつけるきっかけとなった一冊の本との出会いです。この本は、後にガットフォセ博士に精油学を教えることになるシャバイン医師が1838年に書いたもので、彼女にとって生涯のバイブルとなります。ふたつ目は、ホメオパシーなどの自然療法全般に理解のあるモーリー医師との出会いで、マルグリットは彼と2度目の結婚をし、その後の生涯をともに自然療法の実践に捧げることとなるのです。40歳代にアロマテラピーの神経系にもたらす効果や長寿と若返り効果について精力的に講演をして名声を得た彼女は、パリ、スイス、イギリスにアロマテラピークリニックを開設します。やがて世界的に権威のあるエステティックおよびコスメトロジーの団体CIDESCOの会長に就任し、精油を使用したコスメトロジーに関するリサーチに対して1962年と67年に国際的な賞を受けています。彼女は1968年9月に73歳で心臓発作により他界しますが、夫のモーリー医師によれば、亡くなる直前に書かれ枕元に残されたメモには、「アロマテラピーがコスメトロジー(美容学)に取り込まれたら、想像もつかないような並はずれた成果を出すに違いない」と書かれていたそうです(注1)。
ダニエル・ライマンは、モーリーの遺志を継いで精油を使用したさまざまな香粧品を製作しており、飛行機の時差ボケを解消するアロマトラベルキットは英国航空をはじめ多くの機上で取り入れられてきました。最近では大手薬局チェーンのブーツと共同開発した新しいアロマコスメを発表して話題を呼んでいます。同じくフランス人でイギリスにおいてホリスティックアロマテラピーを実践している人といえば、アロマセラピスト歴40年でいまだ現役で活躍しているミシェリン・アーシエも在りし日のモーリーに直接師事したひとりです。
パリで生まれたホリスティックアロマテラピーがフランスに定着せずにむしろイギリスで開花するのには、社会的な背景が大きく影響します。フランスにはmasseur-kineitherapeute (理学療法士) の公的資格制度があり、これをもたずして職業的にアロマテラピーマッサージを生業とすることは難しいからです。マッサージという言葉ですら上記の資格保持者でない限り表向き使うことははばかられ、「マッサージ」という代わりに「modellage de corps(身体を再構築させる)」と苦し紛れに表現することもあるそうです。フランスではまた、薬剤師や医師の免許なくしては精油の薬効を表現することもできないらしく、いわば日本と似たような、否、日本よりも厳しい状況がホリスティックアロマテラピーの普及に影を落としていたのです(注2)。ミシェリンによれば、フランスでは潜りで仕事をしていたアロマセラピストが過去に何人も法律違反で逮捕されているそうです。そこで、モーリーの遺志を継いだ弟子たちはパリを後にイギリスに渡り、ヨーロッパの中で補足医療に対して特に寛容なこの地で、幅広い実践を続けることとなるのでした。
イギリスでも近年スパブームが起こっており、ロンドン中心部のコベントガーデン地区のサンクチャリーやメイフェア地区のエレミスなど近代的な人気スパをはじめ、バースのサーマエバス・スパやハロゲートのターキッシュバス・スパなど歴史的なスパを新装開店させたもの、または高級ホテルに併設されたものと、さまざまなキャラクターのものが続々登場しています。スパでアロマテラピーにあたっているアロマセラピストはいずれも英国のアロマテラピー協会の認定セラピストですので、形は変われども、脈々とモーリーの美と健康に対するホリスティックな概念はアロマテラピートリートメントの中に受け継がれ、いつの世もこの地で花開いているのです。
(注1)Marguerite Maury's Aromatherapy The Secret of Life and Youth, C.W.Danielより抜粋
(注2)In Essense Vol.3 No.1 p.21およびVol.3 No.2 p.34より抜粋
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