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アロマテラピーワールドマガジン イギリス編第1回 イギリス人の健康観と食生活
池田 朗子   いけだ・あきこ
AEAJ認定アロマテラピーインストラクター。AEAJ企画広報委員。IFA認定アロマセラピスト(IFAおよびIFPA正会員)。AEAJ認定アロマテラピーアドバイザー認定教室aromaticlifeやトリートメントルームを主宰。英国ロンドン在住。
ドイツ編、トルコ編、スイス編とそれぞれ大変興味深いレポートに続き、この度イギリス編を仰せつかりました。アロマテラピーに興味のある方にとっては、流行誌のイギリス特集に取り上げられるような情報はすでにおなじみで、おもしろみがないと思いますので、英国暮らしも4年目にして見えてきた現地情報を、3回に分けてレポートしたいと思います。
さて、今回はイギリス人の健康観と食生活についてです。日本の例にも違わず、英国でもここ数年は健康志向が高まっており、その顕著な例が会報誌No.28でもちらりとご紹介した「The Vitality Show」の異常な人気です。これは2000年4月以来ロンドンのオリンピア(東京ビックサイトのような場所)で毎年春に開催されており、業者やセラピストのみならず一般参加者をも取り込んだ英国で最大規模の美と健康のエキスポです。今年は、英国人の夫をもつ台湾系イギリス人の友人から「義理の母と行く予定にしているのでアキコも一緒に行かないか」と誘われました。友達同士や親子がレジャー感覚で遊びにいく傾向が増えてきました。入場者数の推移をみると、2001年22,000人、2002年32,000人と飛躍的に増加しており、今春に行われた第5回目は39,000人以上との報告があります。また2004年の一般参加者のアンケート集計によれば、入場者の90%が女性、89%が裕福な中流層を含むミドルクラス、72%が25歳から54歳の年齢層、96%がショウの内容に大変満足および満足との評価をし、78%が翌年もショウに訪れたいと回答しているそうです(注1)。
それではアンケートで一般参加者の約8割が翌年もまた訪れたいと回答したこのショウはどのような内容のものなのでしょうか?
バイタリティ・ショウは、(1)Healthy Eating(健康食品)、Beauty(美容)、Health(リラクセーション)、Fitness(フィットネス)、The Spa(スパ)、Wellbeing(健やかに生きる)をテーマに、それぞれの分野の企業が出展するブースでの展示および即売、(2)上記各分野の専門家によるセミナーとで構成されている体験型のショウ。一般参加者の入場料は15ポンド(3,000円相当)で、これはイギリス人の平均所得からするとやや高額といえるものの、先述のように年々入場者が増加しているという点に、健康や美容にまつわる商品や知識の最新情報がいかに興味をもたれているのかがうかがえると思います。
顕著に目立つ傾向は、Healthy Eatingのブースに、ミドルクラスに人気の高いスーパーであるマークス&スペンサーが毎年出展しており、多忙なキャリア層のための健康によく簡単に用意できる半加工食品やオーガニックフードの新商品を提案していること。また中小のオーガニックメーカーのブースも人の山ができます。このブースの売り物は、大量に振る舞われる試供品争奪合戦で、参加者は皆持ちきれないくらい、食品のサンプルをお土産にもらえるのも魅力のようです。もちろん、毎年アロマテラピー関連の出展ブースの数は多く、2002年度は7ポンド(1,500円相当)の追加料金を払えばさまざまな自然療法からひとつ選んで割安で体験できるというゾーンが設置され、アロマテラピーに長蛇の列ができていたのが印象的でした(注2)。
もちろん、英国には昔から健康志向の動きはありました。農家が新鮮な農産物を直接販売するFarmers Marketは、現在でもロンドン内外の無数の地元で週末になると必ず見かけます。そのような市では昔から小規模農家が栽培したオーガニック食材がやりとりされていましたし、ロンドンのヒッピー文化が開花したニールズヤード界隈にはオーガニック食材屋やベジタリアンカフェの老舗「Food for thought(考えて食べる)」、アロマテラピーなどの自然療法のトリートメントルームや、ニューエイジ系ショップなどの文化が脈々と続いているのです。
しかしながら、バイタリティ・ショウに見られる新しい傾向とは、従来型のいわゆる「健康&自然派オタク」ではない層が健康産業に大挙して参入してきたことです。というのも英国はここ10年、景気の低迷を脱して上昇線にあり、IT業界やマスコミ業界などで若くして成功したヤッピー層が、オーガニック食品や新しいイメージの健康産業を支持するようになったのです。彼らは、アンティーク家具や骨董品よりもQ.O.L.(生活の質)の向上に価値を置く新しいプチ・ブルジョワ層ともいえます。オクスフォード大卒のイギリス人の友人(30代前半)のコメントがそれを象徴しています。「そろそろフラット購入を検討しているのだけれど、気がついたらまとまったお金がない。考えてみれば、稼いだお金は皆Fresh&Wild(注3)で使ってしまったからね」
この友人のコメントにもあるように、最近みられる一連の健康志向ブームのキーポイントは、それがお洒落であこがれのライフスタイルというイメージで提起されていること、そして商品単価が英国人の平均所得から察するとかなり高額であることでしょう。一方で、英国国民の中でいまだ多数派をなしている、今日の生活で手いっぱいというような労働者階級の人々のライフスタイルは以前とまったく変わらぬままです。彼らは、伝統的に安価で腹持ちのよい揚げ物が大好きで、油の酸化臭がきついフィッシュ&チップス(魚フライとフライドポテト)、ファーストフードのバーガーやフライドチキンを繰り返し食しており、低所得層のための国営団地(カウンシルフラット)の界隈では、家族そろって老若男女皆まんまるに肥満化した人々をみかけることも多いです。また、低所得層には、水道代の節約からか食器洗い洗剤を水で洗い流さない人がいまだに多く、中性洗剤の泡が一面についた食器をそのまま乾燥して使用する人が多くいます。健康に対する価値観や常識の差に驚かされることは多く、イギリス人の健康観や食文化は二極化現象が大変激しいというのが私の実感です。
(注1)主催者ウェブサイト:www.thevitalityshow.co.uk より抜粋
(注2)AAJ会報誌 No.28,p.58〜59参照
(注3)Fresh&Wild ロンドン中心部ソーホーや、ヤッピーが多く暮らすノッティングヒルなどに支店をもつオーガニック食品やナチュラルスキンケアを取り扱うショップ。現在、ロンドンのヤッピー層の間ではこのお店で食品を買うことがステイタスとなっている。

ウェブサイト:www.freshandwild.com
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